キミがいなくなるその日まで





それから数日が経って廊下ですれ違ったシンは
マスク姿だった。

季節は秋を通り過ぎてもうそろそろ冬がやって来る。窓から見える景色は北風が吹いていてとても寒そうだ。


『なに、風邪ひいたの?』


そう聞くとシンはゴホゴホと咳こんでいる。


『昔からひきやすくて……。だから暫くは病室でじっとしてるよ。マイにうつしたら大変だしね』

もう、なんでこんな時でさえ私の心配をするかな。


『別にそんなの気にしないで。私うつってもすぐに治るし』


高熱が出て学校休めるって思っても次の日には元気になってるし、学級閉鎖になった時だって風邪の一つもひかないからすごく暇だった。

体は丈夫なのに心臓だけが弱くて困る。


『それに私がシンの病室に会いに行けばいい事でしょ』

するとマスク姿のシンの目が細くなった。


シンと別れた後、私は時間通り診察室に顔を出した。手慣れた順序でパジャマのボタンを外す。


『ねぇ、シンが風邪で辛そうだったけど』

風間先生は心臓外科医で内科ではないけど、一応シンの主治医だから。


『ん?珍しいね。マイちゃんはシン君が心配?』

なにそれ、私が心配したら変な訳?ただ風邪で辛そうだったって言っただけじゃん。


『とにかく早く治してあげてよ。先生は医者でしょ』

病院内で風邪ひくとかどうなの。いつもウィルス対策であちらこちらに手の消毒液とか置いてあるのに。


『あれは風邪じゃないよ、湿性咳嗽』


『しっせい……がい…そう?』


聞いた事がない単語。


『シン君の病状の一つ。いわゆる咳だけど風邪とは違うね』

よく分からないけどシンの病状は進んでる。

いつもの日常が少しずつヒビ割れて昨日の自分を置き去りにしていく。

それでも何もない穏やかな毎日を過ごしたいと思うけど、目に見えない病気達の時間は進むのが早い。

きっと私も。