『マイちゃん、そろそろ心臓移植の事本気で考えてみようか』
見慣れた診察室、そこには風間先生と私とお母さんの三人。
いつものように私を診察した後、廊下で待っていたお母さんが中へ呼ばれた。
真向かいに座る風間先生と私の距離は僅か数センチ。毎日見ていた先生の顔は真剣だった。
『今も診察したけど、マイちゃんの心臓は日に日に弱っているんだ。いずれ移植が必要な事はマイちゃんも知っているよね?』
先生はお母さんではなく、私に問いかけている。
隣のお母さんの視線は私に同意を求めるような感じでなんだか居心地が悪い。心臓移植について二人が私のいない所で話し合ってるのは知っている。
────心臓移植。
それは私にとって聞き慣れている言葉で、小さい頃から何度も説明を聞かされた。
今すぐではないけど、いずれ必要になる。
何度も何度も言われ続けてきた事だ。
そのいずれはずっと先の事だと思っていたのに、気づけばこんなに近くにあった。
『私まだこんなに元気じゃん。そんなに焦らなくても大丈夫だよ』
自分の口から出てきた言葉はあまりに他人事のようだった。
『マイ。外見の変化はまだなくてもまたいつ発作が起こるか分からないの。移植についても徐々に準備していかないと……』
お母さんの顔はまるで自分が追い込まれているような顔。
私が僅かな沈黙をすると、先生はすかさず何かを言おうとした。
『マイちゃん……』
その言葉の続きなんて聞かなくても分かる。
“これはマイちゃんの体の事なんだよ?”
“焦らなくていいからゆっくり考えよう”
私がいつも乱暴な事やわがままを言うと先生は決まってそう私をなだめる。
『別にいいよ、やっても。じゃないとダメなんでしょ?』
私の返事は軽かった。
“ダメ”と言うのは私の心臓の事じゃない。
そうしないといけない運命という事だ。



