『別に。ただの換気だよ』
そんな言い訳しか思い付かない。
中村さんは『はいはい』と言いながら私の血圧をカルテに書き込んだ。
ボールペンの音が部屋に響く中、私はなんだか落ち着かない。その理由は……。
『あ、あのさ……』
『んー?何?』
中村さんが顔を上げた瞬間、バッと顔を逆方向に反らす。
『……き、昨日の折り鶴返してくれない?別に捨てちゃったりしてたらいいんだけど』
顔を隠しても動揺は口調に表れていた。
こんなの自分らしくない。
鶴なんて自分でだって折れるし、子供じゃないんだからそんな物が欲しい訳じゃない。
でもただ…………。
『──はい』
頭でごちゃごちゃ考えていると視界に黄色い物が映った。
それは紛れもないシンが折ってくれた鶴。
あまりにすぐ出てきたものだからすぐに反応出来ずにいた。
すると見透かしたように中村さんが言う。
『私は預かってただけで貰った覚えはないわよ。それにこれはマイちゃんのでしょ?』
多分中村さんは私に返すつもりでポケットに入れていたんだと思う。
『うん、ありがとう』
今度は素直に言葉が出てきた。
私は手のひらにそれを乗せて部屋を吹き抜ける秋風が折り鶴をゆらゆら揺らしていた。



