『それじゃ、気をつけてね』

車の後部座席に乗った私のドアを閉めたのは風間先生。そしてゆっくりと発進すると先生達はずっと私に手を振り続けていた。


『マイ、今日はお母さんがいっぱい美味しいもの作ってくれるらしいぞ』

『カズキも退院パーティーだって張り切ってるんだから』


車の中でお父さんとお母さんの笑い声が響く。
そんな中、私はそっと窓を開けた。

吹き抜ける風と共に見えたのは病院の屋上。


何度も何度でも思い出す。

シンと過ごしたあの時間。


「───岩瀬マイさんだよね?」

シンが私を見つけてくれた。


辛くて苦しい時、いつも側にいてくれた。

本当は会いたいよ。恋しくて恋しくて、
仕方がない。

でも不思議と寂しくはないんだ。


シンといたあの日々はもう二度と戻る事はないけど、すぐに消えてしまうほど脆くはない。

ずっとずっと私の心にちゃんとある。


シンは今、両親が生まれた少し遠い場所で眠っているけど、

晴れた日は空を飛ぶ鳥に
雨上がりには七色の虹に

夜は輝く星になって私の心を温かくしてくれるだろう。