『岩瀬マイさん、手術室に向かう時間です』


看護師が呼びに来て私はベッドからゆっくりと出た。


『マイ、みんなが付いてるからね』

お母さんがギュッと私の手を握る。


ドクン、ドクン、ドクン。

私の心音を聞くのはこれで最後。


生まれた時から共に過ごしてきた私の心臓。

何度も何度も苦しめられたけど、今まで生かしてくれた事は感謝してる。例え離れてもこの心臓は私の一部だと思う。

次に目覚めた時は私は新しい心臓になってるだろう。


ドクン、ドクン……ドクン。

さよなら、さよなら、ありがとう。


部屋を出る寸前、どこからか声が聞こえた。
それはあの日交わした最後の言葉。


『マイ、いってらっしゃい』


それは確かにシンの優しい声だった。


私はあの時言えなかった事を、
そして当分会えないけど、いつかまた必ず。



『─────行ってきます』