暫く経って302号室に行ったけどそこには誰も居なかった。
さっきまで眠っていたシンの姿はなくベッドの上にはシーツだけ。病院は死んでしまえば患者ではなくなるからすぐに葬儀屋がきて自宅へと運んでいく。
なんて空しくて、なんて儚いのだろう。
私はシンのベッドに近付き、そこに手を当てた。
顔を埋めるとまだシンの匂いがして、また涙がこぼれる。手で何度もシーツをなぞりシンが居た足跡を探した。
『…………ッ……シン……』
それは探せば探すほど居ない事を実感して、胸が押し潰される。
本当にもう会えないの?
あの笑顔も声も温もりも全て無くなってしまったの?
その時、病室がガラッと開いて私はとっさに振り向いた。
『シンっ?』
思わず名前を呼んだけれど、そこに居たのは風間先生だった。私はすぐに目を反らして再びシンのベッドに顔を付けた。
『マイちゃん………』
今は何も聞きたくない。
お願いだから一人にして。
『マイちゃん移植の事だけど……』
『やめてよっ!!!』
私は近くにあった本を先生に投げつけた。
どうしてこの状況でそんな事が言えるの?
私は胸が張り裂けるぐらい辛いのに。
先生は落ちた本を拾い上げながら冷静に言う。
『………辛いのは分かる。でも移植の返事には時間が限られているんだ。君の家族には承諾してもらった。後はマイちゃんが…………』
気付くと私は拳を握りしめていた。
なんだかキリキリと胃が傷む。



