「優奈姉、バレンタインどうするの?」


帰り道の途中、翔が空を仰ぎながら言った。


2月の空は少しどんよりしていて…

でもそんな空を見つめる翔の横顔はなぜだかとても清々しそうだった。


翔が何を見ているのか気になって優奈も空を見上げたが
特に目を引くものも見当たらなくて優奈が視線をグレイの道路に移す。


「翔にはいつもどおりあげるつもりだけど…


…ってゆうかいる?」


毎年恒例化しつつあるとは言え、

もう高校生の翔にチョコをあげる事に少し疑問を抱いた優奈が聞く。


すると翔が空に向けていた視線を優奈に移して…

真っ直ぐに見つめた。



「…いるに決まってんじゃん。

それにオレが聞いたのはそうゆう意味じゃない。


好きな男にやんないの?って事だよ」


翔の真剣な表情に少し戸惑いを見せながら
優奈が口を開く。


「…好きな人なんかいないよ。

今年もお父さんと翔だけ(笑)


…寂しい女とか言ったら殴るから」


優奈の言葉に翔が安心したように笑って…

優奈の頭をくしゃくしゃに撫でる。



「安心しろって(笑)

嫁に行き遅れたらオレが貰ってやるからさ」



「やだよ(笑)

年下なんて論外。


ってゆうか、翔は弟みたいなもんだもん。


男になんて見えない」



優奈が翔の手を払いながら言った言葉に翔が一瞬黙って…


そしてふっと笑った。



「言ってろよ?

絶対に後悔させてやるから(笑)」



一瞬だけ見せた翔の傷付いたような表情に足を止めた優奈だったが

その後の翔の笑顔に、優奈も笑みをこぼした。





『姉と弟』



その関係が心地よかった。






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