【短編】微糖チョコレート


「うぇ〜…

やっぱり苦いよ…



こんなのチョコじゃない」



なんとなく離れるのが寂しくて
珍しく翔の部屋に上がった優奈が顔を歪める。



優奈が翔に上げたカカオ70%のチョコは
やっぱり甘くなくて…

そんな優奈を見て翔が笑う。



最近はあまり来ていなかった翔の部屋はいつのまにかすっかり男らしくなっていて…


黒で統一された家具は
なんだか翔には似合わないようは気がした。



「はい、優奈姉」


小さく割ったチョコを渡してくる翔に
優奈が小さく首を振る。



「…苦いからいらない」



「大丈夫だって。

これは甘いから」



同じ1枚の板チョコなのに
自信満々に言う翔に優奈が首を傾げながらチョコを口に入れる。


どう考えても甘いはずがないそのチョコが

優奈の口の中に微妙な苦味を広げながら溶けていく。



「やっぱり苦…」


言い終わる前に

翔の唇が重なってきて…



「…甘くなった?(笑)」



唇を離した翔がいたずらな笑顔を浮かべながら言った。


「…苦いよ(笑)」


呆れたように笑いながら返事をした優奈を

翔が優しく見つめて…



「…じゃあまだまだ足りないって事だな」



再び重なってきた唇に

優奈が目を閉じた。




「…ん」




ほろ苦いチョコと


甘い時間…



頭が痺れそうなキスに2人の気持ちが溢れ出す。




「…甘くなった?」



「…わかんない」



トロンとした表情で答える優奈に翔がふっと笑う。




「…じゃ微糖くらいか(笑)」




翔の言葉に優奈が笑みをこぼす。






今までの時間が埋まるように…


何度もキスをした。






FIN




.