「…これ、チョコ」
そう言って差し出されたのは
毎年恒例の板チョコだった。
毎年恒例の…
義理チョコ…
大山の事で少しは自分を意識し始めてくれたような気がしていた翔が
いつもと変わり映えしないチョコに顔を歪める。
「…サンキュ」
優奈が
自分のためにわざわざ遠くのデパートまで行って
カカオがたくさん入っている甘さ控えめなチョコを買ってきてくれている事はわかっていた。
だけど…
それは『弟』として。
「…じゃ戻るから」
わざと冷たく言ったのは
自分の気持ちに呆れたからだった。
義理チョコだとしても
弟としか思われていなくても…
優奈からのチョコをうれしいと思ってしまった自分に呆れたから…
結局…
どうやったって自分の生活から
自分の中から
優奈を切り取ることなんかできるわけがなくて…
嫌いになって欲しいと思ったのに…
ここ数日まともに話していないだけで
優奈の笑顔を見ていないだけで…
息が詰まりそうな自分がいて…
いい加減にしてくれよ…
そんな思いのため息をついた時―――…
「…優奈姉?」
翔の制服の裾を掴む優奈に気がついた。
俯いた優奈の顔がいつもとは違っていて…
「マジで?!」
その数分後、
静かな裏庭に嬉しそうな翔の声が響いた。
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