~翔~



『優奈姉』


そんな呼び方しかできない自分に苛立ち始めたのはいつからだろう…



ずっと追いかけてきたのに

ちっとも追いつけなくて…




『弟』


そんな事を言われる度にどうしょうもない悔しさが襲ってきた。



いつか年上の男に持っていかれる気がして
心配で心配で…




優奈姉…


早く気付けよ。




オレの気持ちに。





早く頷けよ。



『…優奈姉、やきもち?』


オレのしかけたトラップに…












「ねぇ、翔くんってあの2年の先輩が好きなんでしょ?」


廊下のロッカーに座りながら空を見上げていた翔に
大山が話しかけた。


同じクラスの大山は
月1で男が代わる事で有名だった。


男の間ではやし立てられている外見も
翔の目にはそれほど可愛くは映らなかった。



「…なんで?」


チラッと大山に視線を移した後
再び空に目を向けながら翔が答える。


「見てれば分かるよ(笑)

…ばらされたくなかったら今日買い物付き合ってよ」


「…何の?」


翔の言葉に
大山が顔を緩ませながら答える。



「バレンタインの!

みんなに配るから荷物持ちが必要なの。


いいでしょ?」


笑顔を向ける大山に呆れながら
翔が渋々頷いた。








自分以外の口から


優奈に伝えるつもりはなかったから。




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