「優奈、まだ渡してなかったの?」
優奈が机の上に置いたままぼんやりと眺めていたチョコを見つけて
美里が声を掛けた。
2月14日。
教室にはいつもと違う空気が流れていた。
友達同士であげあったチョコを女子が広げていて
甘ったるい匂いが教室を包んでいた。
「ってゆうか、翔くんにでしょ?
何、それ?
板チョコ?」
机の上の薄い包みを不思議そうに美里が見つめた。
「うん。
翔は甘いの食べられないから…
いつもカカオ70%とかの板チョコあげてるんだ」
「へぇ…
甘いの好きそうなのにね(笑)
ってゆうかもう翔くん迎えに来てもいい時間なのにね。
今日は一緒に帰る約束してないの?」
美里の言葉に…
優奈が表情を曇らせる。
『優奈姉~』
いつもなら聞こえるよく通る声が…
今日は聞こえない。
…―――ガタッ
「…渡してくる」
美里にそう残して
優奈が教室を出た。
家に帰ってから翔の家を訪ねるのはなんとなく嫌だった。
もしかしたら大山と一緒かもしれないから。
学校にいるうちに渡して…
全て終わりにしたかった。
全部…全部…
終わりにしたかった。
1年の教室の前の廊下で友達とつるんでいる翔の姿を見つけて…
「翔」
優奈が声をかけた。
翔が一瞬びっくりした表情を浮かべてから…
いつもとは少し違った笑顔で笑った。
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