ゆっくりと振り向く翔の顔が
見られなかった。
「さっき、腕組んで歩いてるの見たの。
翔…本当に大山さんと」
「優奈姉、やきもち?」
緊張しながら言った言葉の返事として
返ってきたのは何度か聞いたことのある言葉で…
優奈が顔をあげる。
視線の先には想像した通り、
真剣なまなざしを向ける翔の姿があって…
唇をかみ締めた。
『何言ってんの?』
『そんな訳ないじゃん』
聞かれる度に誤魔化してきた言葉…
自分の気持ちに気付いてしまった今…
翔の真剣な目を見たまま嘘をつくなんて…
できない。
「…翔に傷付いて欲しくないの」
「…ふぅん。
…でも別に優奈姉には関係ないじゃん?
早く帰ろ~」
翔は向けていた視線を空に移した後、
また前を向いて歩き出した。
翔の目に嘘はつけない。
そう思った。
でも…
『恐い』
そんな気持ちが心を支配した。
今まで翔にこんな気持ちを持ったことなんてなかったのに…
素直な気持ちを伝えることが…
恐かった。
恐くて恐くて…
仕方なかった。
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