「優奈姉~

帰ろ~」


いつもと同じように迎えに来た翔の顔を見た途端に
優奈の気持ちが荒立った。



いつもと同じ笑顔も

いつもと同じテンションも

いつもと同じよく通る声も



全部が気に入らなかった。



こんな気分になる自分が嫌で…




「…今日は用事があるから先に帰ってて」


「え~…

…用事ってなに?


オレ手伝うよ」


「翔には手伝えない事だから帰って」


顔を見られたくなくて

俯きながら言った優奈の言葉に翔がふてくされたような顔をして文句を言う。


そんな翔とは目を合わせずに
優奈が教室のドアを閉めた。




…―――ピシャ




そして乾いた音を立てたドアにおデコをあてる。


用事なんか嘘だった。



なんとなく…


なんとなく一緒にはいたくなかった。


こんなイライラしている自分にも気付かれたくなかった。



「なんだよ~…」


ドア越しに小さく呟いた翔の声が聞こえた後、

遠ざかっていく足音が聞こえた。



いつも聞きなれている足音。


同じ時間に教室まで迎えにくる足音。


犬みたいにいつも自分の後を追いかけてきた足音が…




遠ざかっていく。







断ったのは自分なのに…


どうしょうもなく寂しかった。





翔が離れていくのが





寂しかった。







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