さっきから出かけていったり帰ってきたり慌ただしい俺を母さんが呼び止める。

けれども今は一秒だって無駄にできない。

だって、だって。


ポケットから出したケータイで電話をかけようとして、その電話番号が暗唱できないことに気付く。

そうか、あまり電話をかけたことはなかったね。
かける必要もなかったんだ。

気付けばいつも、君と一緒にいたから。


走りながらおぼつかない手つきで呼び出した電話番号。

ボタンを押す手が僅かに震える。


けれど俺の不安をよそに、3回目のコールで声が返って来た。


「…もしもし、頼?」

泣きそうだった、でも泣いたら終わりだと思った。