俺たちは過去の傷を塗りつぶしたかっただけだ。

何も悪いことなんてしていない。


それなのにどうして、手に入れかけた幸せをこんな人に邪魔されなくちゃいけない。

「もういいだろ?」

出来るだけ穏やかな声音で言うと、彼女の眉がぴくりと吊り上がった。

「何が?どうして私、こんな悪者みたいになってんのよ」


悪者だからだろう、という呟きは胃の奥に押し込む。

「奈里ちゃんはあの時傷付いて、今でもトラウマが残ってるんだ。だから奈里ちゃんはあんまりあなたと話したくないと思う」

「…はぁ?何それ」

呆れたように吐き捨てて、彼女は心に痛い言葉を突き刺した。


「“あんな小さいこと”、まだ気にしてたの?」

何かが、切れた音がした。