「日奈、チョコ持ってきた?

もちろんあげるんでしょ?」


朝、教室に入り席に着いたばかりの日奈に
友達の恵理子が話しかける。


2月14日。


教室は

明らかにバレンタインデーを意識している男子と
緊張で頬を染めている女子で浮き足だっている。


外は信じられないくらい寒いのに
教室だけが熱気に満ちていてその温度差に日奈が口を尖らせた。



「あげる…つもりだけど…」


「つもり?

彼氏にあげなくてどうすんの(笑)」


尖らせた口からポツリと言った日奈に恵理子が呆れたように笑う。



彼氏もいるのにこんな日にウキウキ出来ないのには理由があった。



日奈が上条と付き合い始めたのは今から4ヶ月前。


4月、委員会が一緒だった上条に日奈が一目ぼれした事から恋が始まった。


なんとなく気になって…

それくらいだった想いが急に大きさを増したのは6月の球技大会。


バレーボールにでた上条のプレーを見て時間が止まった。


救護係だった日奈に上条が絆創膏をもらいに来た時
初めて話した。


その落ち着いた低く甘い声に…

上条に2度目の恋に落ちて…



「同じ人には一回しか恋には落ちないんだよっ」


恵理子に呆れられた。



でも…

本当にそんな感じだった。



外見に恋に落ちた後…

声にも落ちた…





そして極めつけは…


前日欠席した事から
日奈が無理矢理押し付けられた委員会の仕事を

上条が手伝ってくれた時。



「ごめんね、上条くん部活あるのに…」


「…別に。

大体これ篠原1人じゃ終わんねぇし」


名前を覚えてくれていたうれしさと
その優しさに…



3度目の恋に落ちた。





…恵理子に呆れられた事は言うまでもない。



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