会長が源二様と対峙してしまったことを耳にした。

豊福家の借金おもしろ裏話も知ってしまったらしく、さすがにおイタが過ぎたよう。


愛娘を道具のように扱い、彼女の意中にまで手を出した愚行に源二様は悲憤したそうだ。


以降、自分の家族には手を出させない。

代々続いている御堂家は会長の代を持って終焉、自分の代からは新たな御堂家として再起をはかる。


優しすぎる源二様があの会長にそこまで言い放ったというのは興味深い。

御堂財閥は暫く人間関係で荒れるだろうな。


なにせ、血の繋がった親子が分裂してしまったのだから。

骨肉の争いとは言ったものだ。


困るのはきっと双方だろう。

御堂財閥の分裂を他の財閥は見逃さない。

会長は勿論のこと、源二様もこれから先、どの財閥を味方につけ、どの財閥と対峙していくのか、頭を悩ませていく筈だ。

尤も優位なのは会長だろう。
御堂淳蔵といえば、五財盟主のひとり。人脈もそれなりにだ。


ううん、まあ、怨んでいる人脈もたーくさんだろうけどね。


だけど会長は源二様の対峙よりも、今、目を光らせていることがある。


二階堂楓の存在だ。

財閥界では不甲斐ない長男坊と認識されている二階堂財閥長男。

けれど僕も会長も、あいつはすっとぼけの飄々とした青年像は仮の姿だと睨んでいる。

奥底では野望と刺激を求めたスリリング大好きな男だろう。


だからわざわざ会長の前に現し、自分が兄弟に企業データを解析させ、此方の思惑を全力で阻止したのだとアピールしてきた。

あの狐男、僕がUSBメモリに盗聴器を仕掛けていたことに気付いていたな?

逆手にとって利用としてきた腹黒さは僕ですら舌を巻く。


「会長。二階堂楓は如何します?」


今後のことが気になり、相手に意見をあおる。

「潰すさ」

ああいう小生意気な青年(ガキ)ほど虫唾が湧くものはない。
会長はそうのたまった。


あーあーあー、少し前までは“財閥の共食い”にお熱だったくせに、今は新たな若人の芽を摘むどころか焼き払おうとしている。


ヤーなジジイだ。どんだけ自分が支配者であり続けたいのだろうか?

僕だってその椅子にどっかり座って、誰彼顎で指示してみたい。さぞ清々しいことだろう。