「さっさとさせんか。ばか者め」

 
上から目線の鈴理に冗談じゃないと大雅は肩を竦め、早く受け男を取り返せと助言する。

勿論そのつもりだが、そのためのエネルギーが必要なのだと鈴理は荒々しく頭を掻き、ずんずんと大股でソファーに向かうとそこに腰を落とす。足を組んでむっすりと顔を顰める鈴理は欲求不満だと不満を零した。
 

「今頃、玲とあーんなことやこーんなことをされているのではないかと妄想しては欲が爆ぜそうになる。はぁあ、あたしがヘタレていたばっかりの結果だな。一生の不覚だ」

「だからって縛りはねぇよ縛りは」

「空の時はよくやっていたぞ? まあ、あいつは非力だから押えつけて無理やり縛っていたんだが。いやぁ、あいつの焦る顔が毎度楽しくてな」


笑顔で言うことじゃねえよ、阿呆。
 
引き攣り笑いを浮かべる大雅はえげつねぇと零した。

改めて思う、攻め女って怖ぇ。
ああ、自分の身の危険を感じる。

三ヶ月の間に婚約を白紙しないと自分が受け男にされてしまう。


もしもそうなってしまったら、嗚呼、ガッデムである。


「豊福はよくテメェ相手に我慢できたな」


ある意味寛大な男かもしれない、大雅は感心を抱いた。



「けどよ鈴理。三ヶ月で大丈夫なのかよ。
婚約を破談するスパンとしては短い気ィするぞ。親父達は俺達がガキん頃から将来を誓わせようと目論んでいた。

せめて半年の期間は見積もるべきだったんじゃねえか?」



大雅は壁際から自分のベッドに移動してそこに腰掛ける。


「正直辛いな」


三ヶ月で説得できたら自分を褒めてやりたい、鈴理は神妙な顔で吐露した。


半分以上は見栄を張ったと婚約者の口から真相を聞き、「嘘だろ」じゃあ受け男の件も見栄かよ! 頓狂な声音を出す大雅に婚約者、「それは本気だ」駄目だったらあんたを受け男にするつもりだと鼻を鳴らす。

 
冗談ではない。

だったら半年にすればよかったのではないかと大雅が物申す。


「その手もあったが」


半年じゃ多分、すべてが遅い気がしてな。鈴理が口をへの字に曲げた。
 

「玲と空の婚約は極最近に決まったことだ。が、あの調子ならば一ヶ月後にでも正式に婚約してしまいそうな気がしてな。

なにせ、御堂家の愛娘は財閥界でも有名な男嫌い。
世継ぎ問題で悩まされていた御堂家にとっては朗報も朗報の筈。

半年もスパンがあれば正式な婚約式を挙げるに違いない。それだけはなんとしても阻止したかった」
 

「だから三ヶ月って見栄を張ったわけか。ったく、無茶だぜ。三ヶ月なんて」