「だがこのまま見合いから逃げても、玲が困るだけだ。祖父に結婚相手を決めかれないぞ」


斜め上の返答に玲は硬直してしまう。

それは考えてもいなかった。
が、確かにあのミイラ猿ならばやりかねないことである。

源二は愛娘のことを心配して見合いを受けて欲しいと頼んだ。

自分だって自分より年上の男が愛娘の旦那になるなんて想像もしたくない。

見合いを受け蹴ることは可能なのだから、我慢して見合いを受けてくれないだろうか。自分自身のためにも。


父の強い説得により、玲の心は揺れ始める。

しばし間を置き、「受けるだけでいいんですね?」玲は念を押した。

強く頷く源二は結婚まで話を持っていかせないと約束してくる。

玲の心に決めた相手でなければ、此方とて許可できない。

断言する父の言葉を信用し、玲は渋々承諾する。

自分自身のために見合いを受けよう、そう己に言い聞かせて。


「すまないな」私にもっと力があれば、謝罪してくる父に玲は首を横に振る。

これは父のせいではない。
祖父(ジジイ)のせいなのだ。


「そうだ。玲。見合いの時は女性らしく可愛いワンピース「スーツか学ランでいきます」はぁああっ、私はお前の育て方をどこで間違ったのだろう。見合いまで男装する奴が何処にいる」

 
此処にいると玲は素っ気無く返事し、「男なんて嫌いです」女の子を口説くほうが楽しいと父に告げた。

「頼むから彼女は作ってこないでくれよ」

嘆く源二の声が玲の自室に満たされる。

出来ない約束だと玲が言えば、がっくり源二は肩を落としたのだった。
 
  
 
 


「―――…御堂家は代々女傑族。まったくもって不快だ。此方は子息が必要なのだ。折角息子の源二が生まれても、孫が女では無意味。そのためにはさっさと玲に身を固めてもらわないとな」


とある屋敷の和室で、晩酌をしていた老人はシニカルに口角を持ち上げた。

早くひ孫の顔が見たい。否、ひ孫は必ず男でなければならない。

どちらにせよ孫には身を固めてもらわなければ。


御堂 淳蔵(みどう じゅんぞう)はお猪口を傾けながら秘書が持ってきた書類に目を滑らせる。

食えない笑みがまた一つ、淳蔵から零れた。
 


「世継ぎを生む可能性が垣間見えたならば、さっさと流れを作れば良い。そうだろ? 玲」 



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