「な、なに…?!」
「…お前こそ、朝っぱらから何暴れてんだよ」

「ご、ごめん、ちょっと夢見が悪くて…っ」
「…そ。お前今日ガッコだっけ、俺もバイトあるから八時前には起こして」

「わ、わかった…!」

言って、寝静まった気配を確認してから、そろりと押し付けていた毛布をどかす。
その更に下のふとんの隙間から彼が顔と共に大きく息を吐き出した。

「ぷは! な、なに…うぐ!」

全く状況を理解していない彼が漏らした声に、あたしは再び肝を冷やし、勢いよく彼の口を両手で塞いだ。
目覚めたばかりの彼がいきなりの状況に目を白黒させているけれど、こっちもそれどころじゃない。

「こえ、ださないで…!」

彼の眼前でなるべく小声でそう言うと、彼はその双眸にあたしの姿を映し、それから記憶を探っているのであろう時間を数秒要した後、こくりと頭を傾けた。
それを確認して、押さえつけていた両手を彼の口からそろりとはがす。

未だ混乱する頭と胸に酸素をめいいっぱい送りながら、自分も状況を理解する為再度記憶を掻き回す。

目の前に居るひとのこと、それから今の“自分”のこと。
互いの目に映るのは、紛れもなく自分自身。

そう、つまり。


「……戻ってる…」