あの時――真梨が拉致られた時、蓮は颯と通話中だった。


丁度俺は教室に行った後屋上にいたから、その場面に出くわしていた。




颯のケータイが鳴って、静かにいつも通り颯はそれに出たけれど、少し時間が立つと眉間に皺を寄せて。




「はあ?今どこだよ」




いつもと違う言葉遣いに、何かが起こったのだと知る。


颯は俺達に――その場にいた俺とタカに視線を向けると、ケータイをスピーカーモードにして俺達の前に置いた。




「…そこにいるんだな?真梨ちゃんは??」


「ああ。ちょっと怖いらしいから距離は取ってるけどな」


「そう。今からそっち行くから、それ以上は真梨ちゃんから離れないようにね」




…怖い?


離れる?




何が――なんて、愚問か。


真梨が怖がって蓮が離れるということは、蓮がその対象になってるんだから考えればわかる。


襲われて喧嘩になった、というのが妥当だろう。




――でも、




「真梨っ!!」




スピーカー越しに聞こえた蓮の叫びとも取れる声によって、大きくそれは動いてしまった。