大きな揺れで目が覚めた。

一瞬どこに居るのかわからなかったが、
肩に寄りかかる狐耳の男を見て、
全てを思い出した。

「狐、起きて」
「ん?!」

面食らった動物の顔で、狐は飛び起きた。

尻の下に、
ブルドーザーが滑り込んで来ているような、
振動で眠るどころではない。

消灯され、
暗い機内は乗客の不安げな囁きで満たされていた。

『遠巻きに気流を乱されていますね』

ザビエルさんが、流暢な日本語で声を掛けて来た。

「あれ?!ザビエルさん日本語巧くなったね」
『これは心の声です』
「はぁ?!」
『敵は恐らくイッタンモメンですね』
「待って、こっちの動揺スルーしないで!
 心の声ってどういうこと?」

『ごちゃごちゃウルセーな』

狐の声。

『一々音で伝えるより、言葉も画も、
 頭に直接情報ブチ込むのが一番なんだよ、
 わかるだろ、ホラお出ましだ』

飛行機の横を、白い布が通過したのが見えた。

今の、と騒ぐ間もなく狐が肩に手を置いて来た。
瞬間、
また、
シンの時と同じ、
直感が身体を駆け巡った。

飛行機を、神様にでもなったよう、
真上から見たような画が、頭の中に広がった。
沢山の白い布が、
飛行機を取り囲んで飛んでいる。

飛行機の窓に、
白い布がギリギリまで近寄って来たので、
思わず見入ると、

布に赤ん坊の顔が浮き出て来た。

そして、

ギャ、
ギャァ、
オギャァ、
アア、

と泣き声が機内に響き渡り、
乗客はパニック状態に陥った。

誰かの赤ん坊だと思うには、
状況が状況。

見渡すと、全ての窓に、赤ん坊の顔、
中央の大画面にも、座席の画面にも。


日本人と思しき、高齢の男性が、
立ち上がると、水子だぁ、水子の霊だぁ、と叫び、
避難具を取り出そうと暴れだした。