女子トイレの個室を出たとき、先に手を洗っていた女性が、ちょうど外へと出ていくところだった。


顔は見えなかったけれど、長く美しい髪がふわっと香った気がした。




わたしも手を洗い、席へと戻る。


通路の数メートル先を、さっきの女性が歩いている。


すらっと背が高いその人は、わたしが戻るはずの席の前で、ふと足を止めた。


樹がこちら側を向いて座っている。




「樹?」




澄んだ声に呼ばれ、顔を上げた彼の顔が
やっと彼女を識別し


瞬間――
まるで魂のすべてを持って行かれたようになるのを



わたしはただポカンと眺めていた……。