メールを送信して携帯をポケットにしまっていると、祐二さんが戻ってきて言った。


「まこっちゃん、ちょっといいかな?」


「へ?」


祐二さんはガラス張りの扉の向こうを気にしながら、わたしの腕をつかんで物陰へと連れて行った。




「あのさ、樹に何か言った?」


「何かって?」


「借金のこととか…」


「え、何も言ってないけど」


「ずいぶん前だよ? 例えば花見の頃」


言いにくそうに訊く祐二さんに
ううん、とわたしは首を横に振った。


失踪した先輩の代わりに返しているという樹の借金については、出会った日にその話を聞いたきり、その後樹は一切その話をしなかった。