「…名前知ってんだ?」 つきあたりのドアのとこに立って、樹がわたしを見下ろした。 「うん…」 「もうそんなんじゃないよ、全然」 それから彼は窓の外の曇天に目を遣った。 「それにあいつ、結婚するし。つーか、したし」 「え」 今日結婚式らしいよ、と何でもないことのように樹は言った。 あ… だからあんなに何度も空を見上げて―― 雨粒をこぼしそうな空をにらんでいた樹 美里さんのことを「あいつ」と呼ぶ樹…