ロビーにわさわさと溢れてきた人込みに紛れないように、樹がスッと、わたしの手を引いて歩き出した。 あ… 右手が彼の左手とつながる―― そうして「何食いたい?」なんて平然と訊いてくるんだ。 「えっと……」 「パスタか串カツかクレープなら、美味いとこ知ってるよ」 優しい眼が覗き込む。 「あ、じゃあ…パスタ」 「よっしゃ」 ギュッと、手を握られた。 表に出ると、樹はまた曇り空を見上げていたよ。