ハルアトスの姫君―君の始まり―

* * *


「あ…あの…タオルまでありがとうございました…。」

「敬語、似合わんな。」

「え?」

「普通で良いぞ、普通で。」

「でも…キースが『シュリ様』って…。」

「まぁ奴の境遇ではそう呼ぶのも仕方ない。
奴とお前は違う。だから良い。普通で。その方が喋りやすいだろう?」

「そりゃあまぁ…。」

「『血』は落ちたようだな。
心もある程度は落ち着いたか?」

「…っ…。」


『血』という言葉にいちいち反応してしまう自分が情けない。
…こんな有り様で剣士は務まらないのは百も承知だった。


「心はまだ、といったところだな。
でもそこの薬師がうるさいから、まずは説明をしてもいいか?」

「薬師って古めかしい呼び方すんな。医者と呼べ、医者と。」

「ではそこのヤブ医者。」

「おれはヤブじゃねぇ!」

「クロハっ!」

「シュリ様はクロハを怒らせるのが得意ですね。」

「てめぇ…何をのこのこ…。」

「キース…濡れてる?」

「あ…ああ。井戸の水で洗ってたから。」


―あたしがシャワーを借りちゃったから?
そんな考えが咄嗟に浮かんだ。