「ん?」

「…生まれてきてくれてありがとう。」

「え…。」


これだけはちゃんと伝えないと。
今、ここにキースがいてくれることはきっと、当たり前なんかじゃないから。
たくさんの辛いこと、悲しいことに負けずに生きてくれた結果だから。


「…キースのお母様、お父様にもありがとう…って、いつか伝えに行きたい。
今日はここからしか言えないけど…でもありがとう、ございます。たくさん迷ったかもしれないし、大変なことも悲しいことも辛いことも…あったかもしれないけど…。
でもあたしは今ここにキースがいてくれて、こうして誕生日を一緒に過ごすことができて…嬉しい。」


目を見て伝えないのは少し卑怯かもしれないって思うけど。
…正直、身体がだるくて体勢を変えることができない。そもそも、あまりにも強く抱きしめられていて息をするのさえ難しいくらいだ。


そう思っているとキースの腕がゆっくりと解けた。そして身体の向きを変えられる。


自然と重なる視線と、ぶつかる額。


「…あたしと出会ってくれてありがとう。
たくさんの幸せをありがとう。
頑張る元気をくれて、ありがとう。
今、ここにいてくれて…ありがとう。
これからのキースも今までのキースも、あたしはずっと大事にしていくよ。」


言いたいことを全て言い終えると、キースは今日一番優しい笑みを浮かべた。そしてその口がゆっくりと開く。


「…こちらこそ、だよ。
温かい気持ちをありがとう、ジア。
こんなに幸せな誕生日は、生まれて初めてかもしれない。」


額にキースの優しい唇が触れた。
再び額が重なって、笑みは同時に零れた。