「ちゃんといるよ、ここに。…大丈夫だから。」


子どもをあやすかのように頭を撫でてくれるキースの手が心地よくて目を閉じれば、また涙が零れ落ちる。これじゃまるで意味がない。そんな子どもみたいなあたしに呆れるでもなく、キースは頭を撫で続けてくれる。


しばらくして、ようやく涙が止まり落ち着いてきた。
意識がはっきりしてくると訊きたいことは山ほど出てくる。


ゆっくりとベッドに手をついて身体を起こす。まだじんわりとだるさは残っているけれど、今は状況を整理することを優先したい。


「…泣いたりして…ごめんなさい。寝起きだったからぼんやりしてて…。」

「いいよ。泣かせるようなことをしたのは俺だから。」

「っ…そうじゃないっ…ごめん、あたし…。」

「…ジアは何でも先に言っちゃうんだね。」

「え…?」


キースの言葉にぱっと顔を上げた。


「謝りたかったのは俺の方だよ。…という俺が謝らなくちゃいけないね。
約束を勝手に破ったこと、本当にごめん。
今更だって君は笑うかもしれないけど…でも俺の選択は君のためを思っているようでそうじゃなかった。
…だから、ごめん。傷付けてしまって…泣かせて、ごめん。ごめんなさい。」


キースの髪がさらりと揺れた。普段は見ることのできないキースの頭頂部が見える。キースは頭を下げたまま動かない。


「…怒りたかった。…でもそれ以上に許したかった。
だから、キースの『ごめんなさい』を受け入れる。…許し、ます。」


キースの頬に手をあてる。そしてそのままゆっくりと顔を上げさせる。
少し目が泳いでいるキースに、今できる一番の笑顔で返す。するとキースは少し困ったように笑った。