ハルアトスの姫君―君の始まり―

「それでお前は呪いを解く、と?」

「俺の今持つ知識、そしてこの力で解けるのならば。
彼女たちは本来受ける必要のなかった中傷を受け、感じる必要がなかった不自由さを感じて生きることを余儀なくされてきた。
…この歪みこそ、正されるべきだと思います。」


歪んだ巨大時計が光の上に鎮座している。
文字盤でいうところの2、6、10のところがくぼんでいて、文字がはっきりとは見えない。


「歪みを正した先に何が待っているか分からない状況でも、か?」

「…そもそも、巨大時計を呼び起こしてしまった段階で、もう他に選択肢なんて存在しないのですよ。
涙は全て、揃っているはずですから。」

「え…どういうこと…?」

「クロハ、床が光ったりはしなかった?」

「おお、したぞ?涙を吸い込んだ。」

「…なるほど。シュリ様と…シャリアス様はいかがでしたか?」

「様なんてやめてくれ。呼び捨ててくれて構わない。
…床は光ったよ。同じく涙を吸い込んで、ね。その床に穴ができて、その穴に吸い込まれてここに辿り着いた。」

「では本当に三つの穴を封じる要素が揃ったことになります。」

「要素って…もしかして、涙?」

「…そう。でもただの涙じゃダメなんだ。」


キースが一度だけゆっくりと瞬きをした。
目を開けると、ふうっと小さく息を吐いてから言葉を口にする。


「三つ全てに共通するのは〝互いを真に想い合うもの同士であること〟なんだ。それはおそらくどれも全て満たしていたはず。だからこそ涙を吸った床が光り、ここまで通じる道を形成してくれた。
ミアとクロハの場合は…ミアの言葉を戻してくれたっていうところかな。二人は俺たちとは違って異空間にいたわけではなかったからというのも挙げられる。」

「…共通しない点は?」

「一つ、人間同士の涙。二つ、魔法使い同士の涙。そして三つ、人間と魔法使いの涙。
これが穴を塞ぐための三つの涙だよ。」