ハルアトスの姫君―君の始まり―

「シャリアス…。」

「もう…いい。」

「え…?」


シュリが顔だけをこちらに向ける。


「…そんなに魔力も残っていないだろう?
それに僕は何もできない。力になることも。
…もう、君にこれ以上苦しんでほしくはない。」


正直な気持ちだった。
悲痛に歪む顔を見たわけではないけれど、それでも背中を見て分かっていた。
シュリがどんな表情で炎に立ち向かっていたか。


防御魔法を発している両手の指先が火傷によって赤くなっているのが見えた。
僕は身体に回していた腕を離し、そっとその両手に触れる。


「っ…!」

「怪我も酷い。
僕はシュリを傷付けてまで生き永らえたくないよ。」


…死ぬのは嬉しいことなんかじゃない。
それでも、自分の死と君がこれ以上傷付くことを天秤にかけたら。


「一緒に終われるなら、僕は本望だよ。」


本望だ。シュリと共に生を終えることができるのならば。





「…何を言ってるんだ、シャリアス。」


シュリは僕を振り返った。
その瞳に小さく涙が光った。