ハルアトスの姫君―君の始まり―

【シャリアスside】


ズキっと頭に痛みが走った。


「っ…！」

「シャリアス!?」


まるで僕を心配するかのようなこの声。
…待て。僕はこの声を知っている。


霧に邪魔された視界のようにぼんやりとした記憶。
その記憶の淵に触れたいのに、激痛がその邪魔をする。
ぎゅっと目を閉じた。目を開けていられない。
痛い。痛くて痛くてたまらない。


目を閉じた先…
今、見ているのは、夢なのか記憶なのか…それとも、現実なのか。





泣いている。
奥底で〝誰か〟が。
その細い肩を震わせて。


―――そう、僕はその肩が誰のものかを知っている。
いや、知っていたはずなんだ。


痛みが一瞬遠のいた。
ゆっくりと目を開けた先にいたのは、瞳に涙を僅かに浮かべた…君だ。





「シュリ…。」





それは誰なんだ？
口から出た言葉に動揺が隠せないのは僕の方だ。


でも、僕は…
華奢な腕、赤紫色の長い髪、その強い瞳を知っている。
強い瞳から、涙が溢れていく。
それを見つめることしかできない。


「…できない。殺せない。死にたくない…っ…死なせたくない。」


苦しそうに目の前の彼女がそう呟いて、がくりと膝を床についたその時、何故か僕の目からも涙が零れ落ちた。


彼女の涙が床に吸い込まれ、僕の涙も床に溶けた。