ハルアトスの姫君―君の始まり―

身体がじんじんと痛む。
それでもシャリアスより先に立ち上がらなければならない。


その気力だけで立ち上がった。
いつも支えてくれていたはずの人は、反対側の壁に背中を打ちつけたようだ。
そのまま、動かない。


死んではいない。
それだけはなんとなく分かる。
だから今はチャンスなのだ。


終止符を打つべき時は、誰がどう見ても〝今〟





「シャリアス…。」





涙が出た。とても自然に。
愛しくて愛しくて気が狂いそうになるほどの想いが全て、涙に変換されているかのようだった。


涙で視界がぼけて見える。
これは避けるべき状況で、今すぐ涙を拭わなくてはならないことは分かっていた。
それができないのは、この手が震えているからだ。
とどめを刺そうとするこの手が。


震える右手を左手で押さえる。
それでもガクガクと音が聞こえてきそうなほどに震える手にむしろ恐怖を覚える。





「なぜ、忘れてしまったんだ…?」





全てを鮮明に覚えているのに。
お前の優しさも笑顔も、温もりもその香りも全て。
全て寸分違わずに思い出せるというのに。





「どうしてなんだ…?」


声まで震えた。