ハルアトスの姫君―君の始まり―

「シャリアス…。」


かつてそう呼んだように、声にした。
愛しい日々だった。愛しい人だった。


「どうして…届かない…!」


声にしているのに、言葉にしているのに。
もうこれ以上、想いを届ける術を私は持たないのに。
それでも届かない。届けようがない。





互いの手から放たれた魔法が正面衝突して激しい光を放つ。
風に増幅された炎が舞い上がり、その火の粉が飛んで来ては私の身体を僅かに焼く。





「ああああっ!」





シャリアスの悲鳴ともとれる声が聞こえた。
鋭い風が脚を斬った。


「っ…。全く、クロハの手を煩わせるわけにはいかないというのに…。」

「はぁっ…っ…!」


術者のコントロールがきかなくなった風に舞い上げられた炎が、より一層大きくなり、爆発した。


「…はぁっ…。」

「うっ…あぁ…っ…。」


同時に壁に叩きつけられ、身体が自然と崩れ落ちた。