その瞬間、その涙は一瞬だけ光を帯びて床へと溶けていく。


「っ…今の…。」


今のは魔法の力なのか…?
そんな疑問は浮かぶものの、現象を説明できない。


「ミア…?」

『…っ…!」


頭の中にミアの声が一瞬だけ響く。


「ミア!?」


ミアの姿は変わっていない。でも、いつものような猫の声は聞こえない。


『…クロハ…っ…。』

「おい!声が…。」


猫の姿のままのミアが口をパクパクと開ける。
それでもそこから音はしてこない。


「…どうなってる?」

『分からない…。でも、声…聞こえてる?』

「聞こえてる。」


おれはミアの両足に触れた。


『…お父様とお母様よ、この二人。』

「え…?」

『城に触れた瞬間、蘇ったの。〝始まりの記憶〟』


ミアの声は妙に冷静で、穏やかだった。