* * * 


ミアとクロハの寝息、そして目の前の男の寝息だけが微かに聞こえるその部屋の中で、目を開けていたのはジアだけだった。


男の呼吸はやや荒く、時折苦しそうに眉間に皺を寄せた。
だがジアにはそれを見守ることしか出来ない。


猫となったジアの右手を額にそっと当てる。


…熱い。さっきよりも熱が上がっている。
氷を作ろうにも冷凍する設備がないため作ることはできない。今のジアでは裏にあった井戸で水を汲むことすら出来ない。
ジアは猫の身になった自分の無力さ、そして歯痒さに爪を立てた。


自分はなんて無力なんだろう。そう思わずにはいられない。
ミアのように傷を癒すことも出来なければ、今、こうして目の前で苦しむ彼の看病をすることも出来ない。
〝中途半端〟な自分に嫌気がさす。
一月に一度訪れる、『人間ではなくなる日』。
ヒトにもネコにも属しきれない自分。


自分がこんな風に思うことが許されないということを知っている。
ミアは自分の逆、なのだから。
ミアの方があたしの何倍も苦しんでるということを知っている。
だが、それでも…


今日という今日は自分のこの猫の姿を恨みたくて仕方がない。


「…にゃあ…。」

『目の前で苦しんでる人を…あたしは助けられないの…。』


口から出る言葉は、ヒトのものではない。
ミアにしか伝えられない…コトバ。