声のした方を振り返ると、長くウェーブのかかった黒髪が揺れる。
冷たいその瞳の奥からは何の感情も読み取れない。
まるで〝無〟


その〝無〟に作られた空間にコツ、とヒールの音がする。



「お前の城などではない。」

「…シュリよ。美しい顔が台無しだぞ?」

「戯言を。」



冷たい視線が交わされ、一瞬たじろいだ。



「まずは挨拶すべきかな、姫君よ。」

「…っ…姫君…?」

「おや、姫君は自分の身分さえ知らない、と?」

「ジア、下がるんだ。」


間髪入れず、シュリがあたしの前に立つ。
その姿を見てジョアンナが怪しげに口元を緩めた。


「哀れだな、シュリ。
人間に傅く(かしずく)など、強大な魔力を持つ同士として嘆かわしい。」

「黙れ。」


低く重い声が響く。


「黙らぬ、と言ったら…お前は私を殺すのか?」

「私はお前とは違う。命を奪うなどという愚かしいことはしない。」

「愚かしい、か。愚かさの始まりは私ではないぞ、シュリ。」


クスリと笑みを零すジョアンナ。
その後ろにはいつの間にかシャリアスとキースが控えている。