ハルアトスの姫君―君の始まり―

「クロハっ!」

「ミア…戻ったんだな。」

「ええ。…肩を治すわ。」

「頼む。」


それだけ言うと、ミアはそっと男に近付いた。
矢の刺さった肩に手をあてる。
その矢はクロハがしっかりと握っている。


「…準備はいい?クロハ…。」

「ああ。」


ミアはそっと目を閉じた。そして傷口に全神経を集中させる。
胸元に光る指輪、そして同じ光を放つその手。
矢が抜けるのと同時に放たれた魔法は瞬く間にその傷を癒した。


「にゃあ?」

「…成功です…。」

「ミア、よくやった。」

「みゃあ…。」

「…もう大丈夫、とまでは言えませんが…一命は取り留めたと言ってもいいかと思います。」

「にゃっにゃーにゃ。」

「え?でも…。」

「にゃーにゃ。」

「…分かりました。何かあったら呼んでくださいね。」

「にゃあ。」


金の猫と銀の髪の少女の会話はそこで終わった。


「あ、おい…ミア!どこ行くんだよ?」


猫が彼の傍に座り、ミアはそれを見届けると彼に背を向けて歩き出す。
その背中をクロハが追い掛けた。