ハルアトスの姫君―君の始まり―

「最後に一つ、訊いてもいいですか?」

「…なんなりと。」

「氷の涙について知っていることはありますか?」

「…それはまぁ…なんとも古いお話ですな…。
王宮には古の言い伝えが…噂のような形で流布しておったの…。」

「教えてください。」

「〝清き三つの魂が落とす涙、合わさればこそ光の道を〟
この『光の道』が氷の涙なのでは、と言われていたこともしばしば…。」

「…貴重な情報をありがとうございます。
辛い記憶に触れてしまったこと、謝ります。
…本当にごめんなさい。でも…無駄にはしません、決して。」

「ジア、そろそろ行くか。
…時間、あるし。」

「え、そんな経った?」

「お前が思ってるよりは経ってるからな、言っておくけど。」

「うわ!じゃあ帰ろう。怒られちゃうし!」

「ジア…というのですか、お嬢さんの名前は。」


不意にそう言われ、ギルを振り返った。


「はい。ジア、といいます。
あたしばっかり名前訊いちゃうなんてずるい話ですよね。名乗らずにすみません。」

「…いいえ。でも…良い名ですな…。」

「ありがとうございます。
あ、じゃあそろそろあたしたち行きます。待ってる人がいるので。」

「…そうか。」

「…また、いつかどこかで会いましょう?」

「え…?」


きょとんとした表情を浮かべるギルに、あたしは精一杯の笑顔を浮かべてそう言った。
涙なんて今落としてはいけない。