ハルアトスの姫君―君の始まり―

「あ、あの…ま、魔女がハルアトス城にいるということを耳にしたことは?」

「魔女…そうじゃの…
わしは何の力もない故、魔女か人間かを見極めることも、そもそも魔女なる存在がいたのかさえも分からぬが…。
でも、そうかもしれん…。」

「え…?」

「国王陛下と女王陛下…は…もう、ヒトのようなお顔をされてはおりませんゆえ…。」

「ヒトのような…?」

「生きているものの表情ではない…。
わしが知っておった顔ではないのじゃよ…。」


消え入りそうな声が、耳に響く。
ギルの絶望を思えばここで涙してしまいそうになる。
それはとてもずるいことだけれども。


「それは…哀しいですね、とても…とても。」

「言葉では語り尽くせぬ…哀しみじゃ…。
じゃから若いお嬢さん、そして青年よ。ここにいてはならぬ。
どこへ逃げれば良いという助言すらできぬが…でも、ここだけはならぬとは言える。
ここは哀しみしか生まぬ場所…。
お嬢さんのその気高さも、青年の実直さも失われてしまう。
それはまた深い哀しみとなる…。」

「…哀しみを無限に続かせたりしません。少なくともあたしたちは。」

「…?」


ギルがじっとあたしの片目を見つめる。
片方の目は隠しているから見えるはずもない。


「…哀しみは終わらせる。この手で。」


ぎゅっと自分の右手を握った。思わず力が入った。