ハルアトスの姫君―君の始まり―

「…何が…あったの?」

「詳しくは…もう誰も覚えていないのじゃ…。
目が覚めた時には城は半壊で姫君は消え去っていた。」

「目が覚めたってどういうことだよ?」

「…わしを含め、全ての使用人たちがその当時の状況を上手く思い出せない。
名前を呼ぶところまでは覚えているのにそれ以降は何も…。
だがしかし、そこで全て終わったのだということだけは直感的に誰もが感じていたのじゃ。
…あの日、わしたちが目を覚ましたあの時には…終わっていたんじゃ、ハルアトスは。」


低く沈んでいくその声に耳を傾けていると、胸がぎゅっとしめつけられるような思いに捕らわれる。


消えた双子の姫君、分からぬその名。
そして一番の疑問は…


「じゃあ、誰がそんなことをしたのかも…。」

「誰だと問われれば誰であるとは…誰も答えられないじゃろうな…。
もう…わしよりも年上じゃった者たちは大方生きておらんし…。
わしよりも若かった者たちは戦に出てしまった。どこにいるのか、生きているのかも分からんとしか…言えないの…わしには。」

「そう…ですか…。」

「今は城、元に戻ってんじゃねーか。
まだ城に使用人とやらはいるんじゃねぇの?」

「…もうおらぬよ、青年。
目覚めたわしたちに突きつけられたのは解雇通知だけじゃ。
あの城にもう人はおらぬ…少なくとも当時働いていた者は。」

「じゃあ今は誰が?」

「…国王陛下、女王陛下…それ以上は分からぬとしか言えん…。
ヒトではない何か、とでも言うべきかの…。」


ギルの声がますます沈んでいくのを聞きながら、託された情報を必死で整理していた。