ハルアトスの姫君―君の始まり―

「それはそうだけどな…見つけなかったら死にゆく命だ。」

「でも見つけたわ、あたしが。
もしかしたら何か知ってるかもしれない…。」

「知らねぇかもしれねぇだろ?」

「でも…知らないとは限らないわ。
だからお願いクロハ…最善を尽くして。」

「ジア!」


鋭いクロハの声。この声に負ければ彼の命は絶対に終わる。


「もう嫌なのよ。あれ以上死体を見るのは。
それはクロハも同じでしょ?」

「……。」


こう言われてはもうクロハの負けだった。
あれ以上の死体を見るのが嫌なのはクロハも同じだったからだ。


「んな顔すんなよな、ジア。それは卑怯ってヤツだぞ。
それに医者のはしくれとしては見逃せねぇ…よな、やっぱ。」

「クロハ!」

「ジア、まずは暖を取る。この辺の燃えそうな木を集めてきてくれ。
当然だが気を付けろよ。」

「分かった。」

「とにかく一番やべぇ傷はこの矢だ。この矢の傷をミアに治してもらう。
…頼むぞ、ミア。」

「にゃあ!」

「夜中まで…もたせんぞ、こいつの命。」

「うんっ!」


少しずつ、暗さが増してきた。
月が見えるまで、森の中は暗いままだった。