ハルアトスの姫君―君の始まり―

クロハを彼の元まで案内する。
傷だらけの男を見たクロハは顔をしかめた。


「こりゃ酷ぇ…。全身の至る所に打撲、切り傷、擦り傷。んでおまけにコレだ。」


そう言いながらクロハは彼の左肩に刺さった矢に触れる。


「…これはかなりマズイ。
つーか何で今呼吸が止まっていないのか不思議なくらいだよ。」


クロハの言葉に、ジアは息をのんだ。


「矢を抜けば出血が一気に増える。そんなヘマはしない。
だが、ここで薬を大量にこいつに使うというのもバカバカしい話だ。
第一こいつの素性も身分も分かんねぇし。」


クロハの言葉はまさにその通りだ。いわゆる〝正論〟


「ジア。」

「今までの出血量もかなりあるし、全身の切り傷や擦り傷だって簡単に治るものじゃない。
足や腕の切り傷は結構深いところまでいってる。
…ミアの力で治せるのは1日に1か所までだろ?
なら、こいつの左肩を治すのが先決だ。だから他の部位は自力で治さなくちゃならねぇ。
こいつの回復を待つような余裕、おれらにあるか?」

「それは…。」

「おれは身分が低いやつを治さねぇとか、そんなくそったれたことを言うつもりはねぇ。
だけどな…おれらにはゆとりがねぇ。物資的にも金銭的にも。」


クロハには冷たいことを言ってる自覚があった。
しかしゆとりなんてもんは最初から自分たちには存在しない。
ほとんど強行突破、なおかつあるのかないのか分からないものを探す旅である。無駄は省かないとやっていけない。それはクロハの一つの信念であった。


「今日新たに出会った人間で唯一生きているのが彼よ。」


クロハの言葉に対し、ジアは真っすぐにそう言った。