ハルアトスの姫君―君の始まり―

* * *


「幸せに…ならない?」


さっきから、キースの言葉を繰り返すことでしか理解が追い付かない。


「人間は…別にハーフでも何の問題はない。
全然違う地域の人間と結婚し子どもができ、幸せな家庭を築く。とても当たり前で自然なことだよね。
でも…魔法使いの世界ではだめなんだ。」

「だめ…?」

「ヒトとは別の世界、時間を生きる存在だってことは分かるよね?」

「…寿命とか?」

「寿命もそうだし、もっと種族的な意味でも違うよね。
だから…交わってはならない。」

「それは、決まりなの?」

「…決まりというよりも絶対的なものかな。
人間と魔法使いは別世界を生きる。これが不変の掟だった。…破ってはならないものだった。」


ぽつりぽつりとキースの口から語られる言葉はどこか痛々しくて、難しくて、言葉を噛みしめることしかできない。
何を言っても足りないような気がして、どう言葉にすればいいのかも分からない。





「俺は存在してはならないんだ。」





その言葉はやけに重く耳の奥で響く。