ハルアトスの姫君―君の始まり―

しばらくするとジアが小走りでやって来た。


「ごめん、遅くなっちゃった…。」

「ううん。平気だよ。」


緑のなくなった暗闇は異常なほど静かで、声だけが妙に響く。


「…話って…なに…?」


声に恐れが含まれている。直感的にそう感じた。
ならば言葉を選ばなくてはならない。
傷付けないように、傷付かないように。


…いや、自分が傷付く分には仕方ない。
むしろ傷付くなんておこがましい話だ。
傷付いていいのは俺じゃない。










「本当は言わないでいようかとも思ってたんだ。
言わずに…いなくなろうと思ってた。」


ジアがぱっと顔を上げた。


「…いなくなる…?」


その表情が萎れる。今にも涙がこみ上げて来そうな表情に罪悪感が騒ぐ。
その罪悪感を抑えるべく、俺はジアから少し視線を外した。