ハルアトスの姫君―君の始まり―

【キースside】


何もない村に静かな夜が訪れるのはあっという間だった。
いつの間にかやってきた夜が、音を奪っていく。


「おい、キース。」

「なにかな?」

「お前…妙なこと考えてねぇだろうな?」


こういう時、本当にクロハには魔力がないのか疑いたくなる。
それほどまでに感覚的に鋭い。


「…妙なことってたとえば?」

「ジアを傷付けるようなことだ。」

「…傷付くかは分からない。それでも話はするよ。」

「話?」

「うん。今夜ね。」

「…ジアにしか言わねぇつもりか。」

「今のところは。」

「そうか。」


クロハは少しだけ遠くを見つめ、そのまま俯いた。


「クロハ。」

「…んだよ?」

「ジアのこと、あとは頼むね。」

「は?」

「俺はもう、傍にはいれないから。」

「なんだよそれ…。」


クロハの言葉に応えずに家を出た。