ハルアトスの姫君―君の始まり―

* * *


ザーツの森に入ってもう2時間になる。


「…酷い…。」

「…もう、息絶えている。」

「にゃあ…。」

「ミア、歩くの危ないかも。おいで。」


ジアの方にすっと寄ったミアはジアに軽々と持ち上げられた。ジアの肩に乗っている。


「にしても酷ぇな…ホントに。埋葬もされねぇのか…?」

「…臭いが酷過ぎる。」


その腐臭に思わず目を背け、右手で上から軽く鼻を押さえた。
ミアもジアの肩の上で目をすっと閉じた。

戦いの爪跡がすぐそばまで迫っているのは知っていた。
だがジェリーズは、先程チャーリーとガルドが話していた通り、第三次ハルフェリア大戦が起こってから2年経った今でも比較的良く守られた土地だった。
だからこそジアも心のどこかで戦争は少し遠い話だと思っていたのだ。
しかし目の前の光景は残酷で、それは紛れもない真実だった。
自分の認識が甘かったのだと思い知らされる。



「もっと補正された歩道はないのかな…?」

「明るい方へ行ってみるか。
危なさは増すが…少しはこんな光景、見なくて済むだろ。」

「うん。」


木々が少ない方を目指して歩き出す。
方角だけは見失わないように、コンパスを片手に。