【キースside】


「立場なら充分わきまえているつもりだけど?」


クロハの言いたいことなら分かっている。
それでもあえてずらした答えを返す。


「お前はジアに近付きすぎた。
今お前が消えたらジアが傷付く。」


予想を越えた反応が返ってきた。
一瞬怯むが、体制を立て直してクロハの言葉を待つ。


「それくらい分かってんだろ。」


吐き捨てるような言葉が妙に刺さる。
分かってる。けれど見ないフリをしていた。
それを指摘されると、刺さらないはずがない。


「…ジアは大丈夫だ。強いから。」

「ジアは強い。でも無条件に強いわけじゃない。
お前、分かってるくせに何言ってんだよ。
ジアがただ強いだけじゃなくて、弱さも抱え持ってるって知ってるだろ。
ジアが…お前を頼ってることも、お前に心を開いていることも…ちゃんと分かってんだろ?」


…そうだ。分かっている。
本当は近付いてはいけなかったことも…分かっている。


なのにあの時、傍にいたいと思ってしまった。
あの瞳に映し出された自分を見た時、もっと映してほしいと願ってしまった。
…近付きたいと、ただ、真っすぐに。


「ジアを傷付けたら許さない。話はそれだけだ。」


クロハの方から話は切り上げられた。
そして俺に背を向け、家へと戻って行った。


暗く闇が潜む森に自分一人が取り残された。


「…クロハもミアも、『ジアを傷付ける奴は許さない』か…。」


ならばきっと俺は許されることは一生ないだろうと、そんなことをぼんやり思った。