ハルアトスの姫君―君の始まり―

* * * 


満ち足りた時が過ぎた。
ただ毎日が幸せだった。傍にいてくれるだけで、本当にそれだけで幸せだったのだ。シュリも、そしてシャリアスも。


ハルアトス紀、1772年。
第一次ハルフェリア大戦が終わり、ヴィトックスの人口は半分に減っていた。
もちろん、シュリの父親は帰ってこなかった。


魔法使いも魔女も不死ではない。
老いは遅く、ヒトよりははるかに長生きするものの、死は訪れる。
ヒトと同じく、致命傷となる傷を受ければそれで死ぬ。
おそらくシュリの父親も戦火の中で死んだのであろう。


父が帰ってこないことは、確かにシュリにとって悲しいことでもあった。
だが、母のいないこの家に父が帰って来ても、かつての母のようになってしまう気がしてならなかった。
それほどまでに二人は愛し合っていた。だからこそ、これで良かったのかもしれない思える。二人は争いのない平和な世界を生きている。わざわざこんなに生きにくい世の中に留まる必要もない。


戦が終わったとはいえ、まだ全てが終わったわけではなかった。
ヒトも魔女も魔法使いも心は荒み、土地も荒れ果てていた。
治安は悪く、小さな武力抗争はあちこちで頻繁に勃発した。


それでも、二人でいることがなによりもシュリを安心させてくれていた。
それを素直には表現しないけれど、それでもどこかでシャリアスには伝わっていた。
その空気が好きだった。シュリも、もちろんシャリアスも。


しかし、幸せに終わりを告げる鐘が鳴った。
第一次ハルフェリア大戦が終わって125年。





…戦いは再び起こる。
今度はシャリアスを巻き込んで。