ハルアトスの姫君―君の始まり―

「シュリ、ただいま。」


優しい声に思わずシュリは顔を上げた。
自分の目からは涙がとめどなく流れていることも分かっていたけれど、今はとにかく顔が見たかった。


『シャリアス…。』


口は動かした。もちろん口に音は伴わない。
シャリアスの笑顔は一瞬で不安げな表情に変わった。


「泣いてる…どうしたの?目、腫れてる…。」


シャリアスがシュリのすぐそばに腰を下ろした。
ベットから身動きが取れないでいるシュリはそのままシャリアスの胸にそっと頭をもたれかけた。


「シュリ…?」

『…このままでいさせて。』


声が出ないのがもどかしくて切ない。
どうすれば伝わるのだろう。
シャリアスが傍にいない間に気付いた想いを。


声は出ていないはずなのに、シャリアスは小さく「分かった。」とだけ呟いて、シュリの背中に手を回した。
優しくて温かいその腕の中で、シュリはまた泣いた。
涙が酷くなればなるほど、シャリアスは強く抱きしめてくれた。
それでもシュリが息苦しさを感じることはないくらいに手加減はされていた。


シュリの涙が幾分かマシになったところで、シャリアスは少しシュリと距離を取った。
ちょっと困ったような笑顔を浮かべて、シャリアスは口を開いた。


「いきなりいなくなったから心配した?」


シュリは小さく頷いた。
こうしていると、自分が小さな子どもに戻ってしまったような気になる。


「ごめんね。でもどうしてもシュリに見せたいものがあって。
これ見たら元気になるんじゃないかって思って…。」


シャリアスがそう言ってポケットをまさぐった。
その手にあったものは小さな――――花、だった。